柩(ひつぎ)の蓋に釘を打つ理由は?
お葬式の出棺前、ご遺族が小石を使って柩の蓋に釘を打つ「釘打ちの儀」。
「どうしてわざわざ、最後に釘を打つんだろう?」と不思議に思う方も多いのではないでしょうか。
実はこのしきたりには、昔の日本事情や「あの世」へと無事に旅立ってもらうための願いが込められていました。
1. 故人との別れを告げ、心の区切りをつけるため(グリーフケア)
精神的な意味としては、「事実をご遺族が受け入れ、心のけじめをつけること」にあります。
大切なご家族を失った悲しみの中、柩の蓋が完全に閉まる瞬間は辛く見えるかもしれません。しかし、あえて自らの手で釘を打つという行為を通じて、「もう二度と会えない」という現実を段階的に認識し、ご遺族が悲しみを乗り越えるための「心の区切り(グリーフケア)」となる役割があります。
2. 「死の穢れ(けがれ)」や悪霊を封じ込めるため
古来の日本には、神道や民俗信仰の影響から「死=穢れ(忌むべきもの)」とする考え方がありました。また、「死者の魂が現世にとどまって悪霊化したり、遺族に災いをもたらしたりしないように」という怖れもありました。
石には超自然的な力が宿ると信じられていたため、石を使って柩に釘を打つことで、死の穢れや悪霊の脅威を中にしっかりと封印し、現世を守るという一種の呪術的な「魔除け・魂鎮め」の意味も昔にはあったのです。
釘を打つ際、金属のハンマーではなく「拳(こぶし)大の小石」を使うことが多いですが、この小石は、あの世への旅の途中にある「三途の川の河原にある石」に見立てられています。
3. 移動(野辺送り)で「蓋が開かないようにする」実用的な目的
昔の日本では土葬が主流で、故人様を納めた柩を大勢で担ぎ、お墓まで歩いて運ぶ「野辺送り(のべおくり)」が行われていました。
当時の柩は、現代のような精密な作りではなく、無垢の板材を上に乗せるだけのような不安定な構造でした。さらに、当時の道は舗装されておらず大変な凸凹道だったため、運ぶ途中で激しく揺れました。
そのため、移動中の振動や湿気による木材の反りで「蓋が外れてしまうこと」を防ぐため、物理的に固定する必要があったのです。
また、当時は防腐技術がなかったため、不衛生な臭いや病気の感染源が外に漏れ出さないように密閉するという、公衆衛生上の知恵でもありました。
現代における「釘打ち」の変化
このように多くの意味を持っていた釘打ちですが、現代では「行わない(省略する)」場合もあります。
現代の棺は釘を使わなくても安全にロックできる構造になっており、移動も寝台車や霊柩車で行うため、物理的な固定の必要性はなくなりました。
また、「柩に釘を打ち込むのは辛くて見ていられない」という感情的な配慮から、現在では釘に見立てたシールを柩に貼るなどの方法もあります。